日中伝統思想交流事業
「時空を超えた共生共創」
第3回を開催

2026年2月14日(土)、日中友好会館大ホールにて日中伝統思想交流事業「時空を超えた共生共創」第3回を開催しました。

第1部では鎌倉マインドフルネス・ラボ(株)代表取締役、一般社団法人ZEN2.0 共同代表理事の宍戸幹央様が講演を行いました。続く第2部では、JACCCOの瀬口清之理事が講演し、第3部では、JACCCOの宮本雄二理事長を交えて、宍戸様、瀬口理事の3名でパネルディスカッションを行いました。

第1部の講演テーマは「資本主義の行き詰まりを越えるマーケティングZEN」です。

宍戸様は円覚寺のある鎌倉をベースに、禅やマインドフルネスを企業経営や組織開発、人材育成に活かす取り組みを続けられています。昨年11月もMindful City Kamakura Weekという鎌倉全体を舞台とした共創型のフェスティバルを主催し、その中で円覚寺の横田南嶺老師も椅子座禅の講演会を行うなど、日中伝統思想の現代社会における積極活用に取り組まれています。

宍戸様は幼少期に体が弱く、苦しいのが当たり前の生活を送る中で、西洋医療の限界を感じ、東洋医療に頼るようになったことが、鎌倉の禅に関心を持つようになったきっかけでした。
大学時代は東京大学で量子力学を学び、IBM勤務を経て自ら起業し、ベンチャー経営と外資企業の人材育成を学び、禅やマインドフルネスの企業経営への活用をアドバイスする、コンサルティング事業の展開へと至ります。

宍戸様は、頭の中での思考の限界を意識し、座禅や山伏の修行において重視される身体的知性を取り戻すことによって、最先端のAI(人工知能)の研究開発やマーケティングにおいて、大きな成果をあげられることを主唱されています。
二元論的な言葉で物事を理解するのは便利ですが、言葉で表現することによって、本質を理解することから離れてしまうという問題が生じます。とくに宇宙や量子物理学の本質は、二元論的な言葉の世界では理解できない。そうした事象を理解するには、言葉によってデータ化されないことに価値があり、それをあるがままに捉えることができる身体的知性が重要になる。

そうした発想に基づく宍戸様の活動が、海外の著名な学者の間でも注目を集め、現代マーケティングの第一人者と評されるフィリップ・コトラー教授(ノースウェスタン大学)の著書の中でも取り上げられました。

2023年以降はAI(人工知能)の発展が加速していますが、この世界でも身体的知性の重要性が注目されています。表面的にわかった気にならずに、本当の知性とは何かを考える手掛かりとして、AI関係者が仏教に関心を持つようになっています。

仏教の開祖である釈迦の時代から約1千年後の5世紀後半から6世紀前半、様々な経典によって仏教の学び方がすでに体系化されていました。それに対して、達磨大使は経典を学んでも釈迦の悟りにはたどり着けないことを説き、釈迦が悟りに至る土台となった座禅そのものに立ち返ることを重視しました。達磨大使は禅仏教の初祖です。

最近のAI時代において、禅で継承されている、言葉では見えない世界にアプローチする姿勢の重要性が高まっています。欧米のビジネスリーダーは言葉の世界の中で迷走し、資本主義が行き詰っています。それは、自分が真に求めているものが何かわからなくなっていることによるものです。周囲の人との比較の中で、人からよく見られたいという欲望に煽られて、本当は自分が心から求めているものではないものを手に入れるために競っている。そこからは真の満足は得られません。

そうした認識の広がりとともに、マーケティングの世界も変化してきています。より豊かで持続可能な社会を実現することが経済の本質ですが、それと真剣に向き合う時代を迎えています。

第2部では、瀬口理事が「近年の世界秩序の不安定化の実態と、その中で日本人が担うべき役割は何か」というテーマで講演を行いました。

グローバル社会は、貧困、飢餓、気候変動、新型コロナ感染拡大、移民問題、ロシアやイスラエルによる隣国の侵略と人権侵害など、深刻な共通課題に直面している。それにもかかわらず、国際的な協力によって、これらを解決することが困難となっている。従来世界の秩序形成を支えてきた国連、G7、G20、WTO、IMF、NATO等の機能が低下し、民主主義、資本主義が行き詰まっている。その主な要因は、米国のリーダーシップの低下、国家間のイデオロギー、経済利権対立の激化にあります。

こうしたグローバル共通課題の解決のためには、各国の短期的な利害を越えた国際協力が必要です。しかし、各国政府の代表は、その国の選挙権を有する国民のために働くことを重視し、自国民の利益を最優先します。このため、グローバル課題解決のために、自国としてどのような貢献をするべきかという利他の意識は乏しい。現在の国家間の合意に基づくルールベースの秩序形成を前提とする限り、課題解決は困難です。

その壁を突破するには、企業、大学、シンクタンクなど「民」の組織が、自発的なモラルベースの貢献によって国家の機能を補完し、ハイブリッド型の安定的世界秩序形成を目指すことが、1つのアイデアです。国際的な食品安全基準、税・会計基準等を制定する分野ではすでに「民」の貢献の実績があります。瀬口理事は2018年以降、日米欧中韓等の国際的な連携の下で「民」の貢献拡大を推進するプロジェクトを進めています。

「民」の組織には政策運営に関する強制執行力がないため、上記のグローバル課題を短期的に解決することは難しい。しかし、この考え方に賛同する人々が、長期にわたって粘り強く全世界を巻き込む努力を継続すれば、22世紀にはモラルに基づく「民」が、ルールに基づく国家を補完する新たな世界秩序形成の仕組みを、様々な分野で定着させることが可能になると考えています。そうした長期目標の実現を目指して、地道に活動を継続することが重要です。

日本社会が欧米先進国等に比べて安定を保てている要因は、政府のリーダーシップがとくに優れていることによるものではなく、「民」の自発的な行動規範に依拠する部分が大きいと考えられます。こうした経験を活かして、日本の企業、シンクタンク等の「民」の組織が積極的に世界に向けて発信し、モラルに基づく「民」の貢献に対する共感の輪を広げることの意義は大きい。

35歳以下のZ世代は、こうした基本理念や活動の推進に強い関心を示すことが多い。一部の若者が、自分も瀬口理事のプロジェクトに加わりたいと、積極的な意欲を示してくることは少なくありません。

第3部では、AI時代における東洋思想の意義、そして日中関係の様々な問題に対する日本としての向き合い方をテーマに、パネルディスカッションを行いました。

宮本:マーケティングと禅が結びつくというのは、新しい世界です。新しい発想で、世の中の雰囲気が動き出している。宍戸さんがこれを一人で始めたことを尊敬します。日本には利他の心を重んじる成熟した国民社会があるため、国民が自発的に規範に基づいて正しい道を選んでいると感じます。

瀬口:外国と比較して、日本社会が安定している要因は、企業の経営理念として「三方よし」といったような、利他的な考え方が広く共有されている面が大きい。「お天道さまは見ている」という一言で自分の心を正そうとするのは、日本人の特徴です。

宍戸:AIの回答を見て、分かった気になってしまうのは危険です。言葉で理解したことだけに囚われずに、身体的知性による本質の理解を含めた、総合的なものの見方を問題解決に活かしていくことが重要です。

宮本:中国に対して日本がどう対応すべきかを考える際には、前提の見直しが必要となっています。近年、日中の国力の差は、さらに大きくなっている。2012年と現在とは全く違う。世界秩序を見れば、超大国アメリカの覇権という前提が変化している。中国も安定感がなくなっています。高市発言後に中国政府が中国人の訪日観光客を制限して、国民同士の民間交流を止めたのは誤りです。高いレベルを含めて、日中間で本気の話し合いを継続することが重要です。

瀬口:世界中の若い世代は、国を越えて相互交流を楽しんでいます。中国の若い世代は、SNS等を通じて日本をよく理解しているので、日本の軍国主義化、治安の悪化といった話を信じていません。1年間に約1千万人も中国から日本に来ていることが、大きく影響しています。

宍戸:客観性だけでは、事実を把握することはできません。観測者の数だけ、事実があります。個々人の感覚、主観として事実を認識し、その意味が何かを考えることが重要です。昔は夜が暗かった。このため人間の自然に対する認識力が格段に高かった。夜空の天体の秩序を保ち、地上の動植物を創造する豊かなエネルギーを持つ天への畏敬が強く、そこからこの世界で生じているいろいろな物事を考えました。

宮本:今日、様々な領域において、東洋の精神が大事になっている。再び世界は東洋を見ています。我々も東洋の叡智に目を向ける意識を高める時です。