アイセック慶応義塾大学委員会 トークセッション「教育」
2023/12/25
講師: JACCCO理事 瀬口清之(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
12月19日、慶應義塾大学 日吉キャンパスで、アイセック慶應義塾大学委員会のトークセッションが開催され、約20名の学生が参加しました。この日は「教育」をテーマに当財団の理事でキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の瀬口清之氏が講師を務めました。
はじめに、慶應義塾大学経済学部2年生の学生から、インドでの海外インターンシップについての報告がありました。インドの大学生・高校生との寮生活での交流、キャリア形成と教育の関係についての指導の体験などを通じて、インドのローカル文化と日本文化との違いを実感すると同時に、強い想い・ビジョンを持つことの大切さを学んだ。その中で自分の「芯」となる部分を自覚できるようになり、自分自身のリーダーシップ力を高める機会にもなったという報告がありました。
これを受けて瀬口理事から、この「芯」とは、自身の心の軸であり、その軸がぶれなくなるよう自己の内面を磨くことがリーダーとして重要であると提起されました。インドでの経験はそこにつながるものであり、大変すばらしいと思うとコメントしました。
またそれに続いて、瀬口理事から「教育」をテーマに、以下のようなメッセージが学生に伝えられました。
自分が求めるキャリアゴールは、自分がいま一番やりたいと思うこと、それに取り組んで一番楽しいと思うことを追求することが前提であるべきである。それは人生の出会い、環境の変化、様々な経験を通じて、年齢とともに変化する。もしやりたいことが変化すれば、それに応じてキャリアゴールも変化するのが自然であり、キャリアゴールは固定的に考えるべきではない。目指すべき目標は、楽しく充実した人生を送ることであり、教育はそのためのものである。
東洋思想では教育のあり方を考える上で、周りの人からは見えない自分自身の内面を磨くことを重視する。表面的にルールを守っていても、いい結果が出ていても、自分だけはその結果が自分として誠実に努力をしたものであるか、ごまかしている部分があるかを知っている。自分が目指す目標に向かって誠実にできる限りの努力をしているかどうかを自分自身に問うことを重視するのが東洋思想の教育の原点である。
それは孔子の言葉「学びて時にこれを習う、また悦しからずや」(論語)、「天の命ぜる、之を性と謂ふ。性に率ふ、之を道と謂ふ。道を修める、之を教と謂ふ」(中庸)などに集約されている。
この考え方は、江戸時代の藩校や寺子屋での人格形成教育を通じて日本中で共有され、現代日本の家庭教育の基礎にもなっている。その教育が目指すものは「徳」を実践する規範を身に付けることであり、仁義礼智信、至誠惻怛、知行合一などがその基礎をなす。日本人に定着している「利他主義」を重視する姿勢の由来はそうした江戸時代の教育にある。
現在、国連、G7、G20、NATOなどの国際的枠組みが存在するにもかかわらず、イスラエルによるパレスチナ侵攻、ロシアによるウクライナ侵攻を止めることができていないほか、新型コロナ感染拡大防止のため世界全体での協力体制も構築できなかった。各国が自国の利益を優先するが故、国際的ルールに基づくガバナンスの枠組みがもはや機能しなくなっている。こうした状況を改善するには、「民」が国家を超えて「利他主義」を実践し、グローバル共通課題に取り組むことが求められている。国民の多くが「利他主義」を尊重する日本こそその先頭に立ってリーダーシップを発揮すべきである。現在、瀬口理事は日米中韓独仏の6カ国の有識者と日米中3国の学生、若手社会人らとともに、そうした考え方を共有する若い世代の人の輪を拡大するプロジェクトに取り組んでいる。
質疑応答では、瀬口理事がこの様な心境に至った経緯やきっかけなどへの質問が出された。セッション終了後、「強く印象に残ったトークセッションだった」という感想が寄せられるなど、参加された学生からの評判も大変よかったとのコメントがアイセック慶応義塾大学委員会の代表より伝えられました。